今年のインフルエンザ対策
今年もあとわずか、いよいよ年の瀬ですね。子供たちは、クリスマス・冬休み・お正月と1年でもっとも楽しい時間ですよね。一方、われわれ大人は、毎日なんとなくせわしなく、少々お疲れ気味の方も多いのではないでしょうか?また、この時期は、受験生や、小さなお子様、ご年配の方、またそのご家族にとって、体調管理に気が抜けないと思います。せき・鼻みず・のどの痛みなどの風邪症状で体がすっきりしない方や、熱が出て寝込んでしまっている方はおられませんか?今の時期になると、インフルエンザの患者さんも外来を受診されます。今年は、全国的には例年よりも早く流行期に入ったとの報告(http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-map.html)があり、鹿児島県内でもすでに学年閉鎖ありました。これからは、より一層気を付けたいものですね。
1. 風邪とインフルエンザの違い
一般的な風邪の場合、比較的症状が軽く、経過がゆるやかで、頑張りが利く可能性があります。また逆に無理をして、重症化してしまうこともあり、このような場合は、やはり医療機関への受診をお勧めします。一方、インフルエンザの場合は普通の風邪とは全く違います。症状が劇的で、突然の高熱(38度以上40度を超えることもあり!)、寒気・悪寒、また関節痛・倦怠感などの全身症状がおこります。感染力が強く、感染スピードも速く、感染してから発症するまで(潜伏期)、1-3日です。通常、健康な成人の場合、特別な治療をしなくても、安静にしておれば2-3日で解熱し、10日前後で回復しますが、乳幼児や高齢者、基礎疾患を持った方は、肺炎や脳症など重症化する可能性もあり、早期の診断と治療が望まれます。このため、感染拡大、予防の観点からもワクチンを勧めているのです。実際、医療の現場では、一般的な風邪の鼻やのどの所見と、インフルエンザのそれとでは、ほとんど同じで、局所所見からの鑑別は困難です。そのため、問診、感染情報がとても大事になってきます。また、インフルエンザが疑われた場合、医療現場では、迅速検査を行うことが多いです。
2. インフルエンザの脅威の増殖力!
わずか1個のインフルエンザウイルスが体内に侵入したら、8時間後には「100個」、16時間後には「1万個」、24時間後には実に「100万個!!」まで増殖します。この圧倒的な増殖スピードが短期間で症状を発症し、かつ大流行につながる要因でもあります。通常、インフルエンザウイルスが100万個以上になると、自覚症状として「寒気・悪寒」が出現し、続いて急激な発熱がおこります。この急激な発症過程がインフルエンザの特徴です。
また、新型が出たときには、世界的に大流行(パンデミック)がおこっています。20世紀では、1918-19スペイン風邪(2300万人死亡、日本:39万人死亡)、1957年アジア風邪(日本:7700人死亡)、1968年香港風邪(日本:2000人死亡)、最近では.2009年新型インフルエンザA/H1N1(日本:2000万人がかかり、200人死亡、米国では1万2000人!が死亡)がありました。日本の死亡率が低かったのは、医療機関がフリーアクセスのため、早期に受診でき、また医療環境が整っているため、迅速検査での早期診断や、早期に抗インフルエンザ薬を投与できた結果であるともいわれております。
3. インフルエンザの種類
インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型があります。A型には144種もの亜型があります。A型は水鳥で多くが認められており、自然宿主として重要な地位を占めています。若鳥の20%から確認されているという報告もあります。鳥インフルエンザの中には、ニワトリやウズラなどの家禽に感染すると高い病原性を持つことがあり、養鶏産業の脅威となっております。身近な話題では、最近、出水のツルから、高病原性鳥インフルエンザ(H5N8亜型)が検出され、厳重な監視体制が引かれています。また、先日お隣の宮崎県では、鶏から発見され数千羽が殺処分されました。また、鳥インフルエンザが人に感染する危険性は極めて低いと言われていますが、人インフルエンザと混じり合い、何らかの変異を起こし、ヒト-ヒト感染する能力をもつウイルスがうまれることが懸念されています。A型は、同じ亜型の中でもわずかな変化を常に起こします。このことを変異といいます。小さな変異を数年から数十年単位で繰り返し、突然別の亜型にとって代わることがあり、これを大異変位といいます。10-40年に一度起こる変異で、これが「新型インフルエンザ」の誕生です。2009年の新型インフルエンザは、トリからブタ、ブタから人へと感染し、当初は“ブタ”インフルエンザと呼ばれていましたね。この変異により、パンデミックが起こる可能性が高まります。A型は、常に新しく変化し続ける感染流行の最先端です。B型とC型には、1つの亜型しかなく、人のみ感染します。B型が大流行しないのは、大きく変化する場合がほとんどないからです。C型は4歳以下の幼児に感染しますが、鼻風邪のような症状くらいでその症状がでないこともあります。免疫は一生継続されるといわれ、大人でC型に感染することはまずありません。現在はA型の2種類(H1N1とH3N2)とB型のインフルエンザが世界中で流行しております。
4. インフルエンザの検査法:代表的な2つを上げます。
1) 迅速検査:2000年ごろから、医療現場に登場し、現在広く普及しております。クニックで行うのがこの検査です。鼻の奥から、粘膜表面のぬぐい液を採取して調べます。10分程度で結果がわかります。ただし、感度がやや悪く検出に必要なウイルス量が数万個です。つまり、感染数時間後ではまだ検出できないのです(1個のウイルスが8時間後で100個、16時間後で1万個に増殖でしたね)。それで、翌日検査で、陽性が出ることが起こるのです。この検査で分かるのは、A型かB型か、または陰性かです。最近、富士フイルム(http://and-fujifilm.jp/virus/)から、同じような方法で、従来の100倍の感度の検査機器が開発され、より早く診断ができます。これは期待できそうです。
2) PCR法:これは、一般的なクリニックにはなく、国や自治体、病院等の専門の検査室で行われます。新型のインフルエンザが疑われるときや、きちんとインフルエンザの種類を調べるときに時に行います。検体中のインフルエンザの遺伝子を数千万倍に増やして検出します。検査に数日かかりますが、数十個のウイルス量でわかります。比較的検査が早くわかり、正確かつ高感度です。
3) その他に、ウイルス分離法や抗体検査法があります。
5. インフルエンザにかかったら?
冬の流行期で周囲にインフルエンザの方がいた場合、普段と違う風邪症状、例えば、突然の発熱などの症状がでたら、インフルエンザに感染した可能性が高まります。特に、保育園、幼稚園、学校、職場等は、インフルエンザ情報も大切です。流行の情報は公表されておりますので、パソコンやスマホで閲覧できます。日本の場合、医療機関はフリーアクセスですが、できれば、お電話をされた上での受診をおすすめします。他の患者さまに感染させる可能性もあり、隔離室や車で待機など、隔離されることが多いです。迅速診断キットで、10分程度で検査結果がわかります。ただし、この検査で陰性だからといって、インフルエンザ感染が100%否定されるわけではありません。翌日に再検査をすると、陽性に出ることもあります。臨床症状や流行状況、生活環境など考慮し、陰性でも、インフルエンザの薬を処方する場合もありますので、担当の先生にご相談ください。かかってしまったら、昔からいわれる風邪の治療、安静、十分な休養を取り、無理をしないこと基本です。
6. インフルエンザのお薬
現在、数種類のお薬があり、年齢、状態により処方しております。インフルエンザの増殖を抑える作用がありますので、発症後48時間以内の服用で効果が期待できます。逆に時間が経ちすぎておれば、これらの薬での有効性は証明されておりませんので、対処療法が選択されます。内服:シンメトレル(1998;インフルAのみ、もともとはパーキンソン病の薬、現在は耐性が多くほとんど使用されなくなった)、タミフル(2001)、吸入:リレンザ(2000)、イナビル(2010)、注射:ラピアクタ(2010)の5つが現在認可されております。インフルエンザウイルスも最近、タミフル耐性(お薬が効かない)株も出現しており、これも注意です。迅速検査では、耐性株かどうかの診断はできませんので、薬の種類については、担当の先生にご相談ください。薬を服用してからの解熱時間は、A型:24-28時間、B型:36-40時間で、薬の種類での大きな差はないとの報告です。なお、症状が軽い場合は、必ずしも、これらの抗ウイルス薬は必要ありません。ひと昔前は、流行性感冒(流感)とよく言っておりました。当時は、迅速検査キットやお薬もない時代でしたが、大半の方が、重症化せずに回復されておりました。2009年新型インフルエンザが出現したときから、マスコミが大騒ぎしすぎたのもインフルエンザに対し、やや過敏になり過ぎているのかもしれません。そうとはいえ、高熱が続くのはとてもきついものです。そこで、解熱剤を使う場合もあるかと思います。実はインフルエンザに対する解熱剤の使い方は、とても注意が必要です。2001年に、それまでに風邪でよく使っていた解熱消炎剤のポンタール(メナム酸)やボルタレン(ジクロフェナクナトリウム)が、これらの薬を服用した、特に小児でのインフルエンザ脳炎を多く引き起こしていたという事実が、調査でわかりました。そこで2003年より、インフルエンザの解熱には、カロナールやアンヒバ坐薬(アセトアミノフェン)が適切との文書がだされており、現在もこれに準じております。解熱剤を使用する場合、十分な注意が必要です。
付録:今年3月に富山化学が、インフルエンザの新しい薬「アビガン」の国内での製造販売承認を取得しました。今までのインフルエンザのお薬とは作用機序が異なり、ウイルスの増殖を直接抑えられ、耐性ができにくいお薬といわれております(https://www.toyama-chemical.co.jp/news/detail/140324.html)。しかしながら、まだ処方はできず、新型、または再興型インフルエンザ感染症が発生し、国が判断した場合に投与が検討されるお薬です。つい最近では、あのエボラ出血熱に対して治療薬として注目をされており、今後期待が高まるお薬です。
7. 昨年インフルエンザのワクチン打ったから、今年は打たなくても大丈夫?
インフルエンザのワクチンは、毎年タイプが違うのです(http://www.nih.go.jp/niid/ja/vaccine-j/249-vaccine/584-atpcs002.html)。つまり、昨シーズンのものと、今シーズンのものとでは内容が少し違います。最近のワクチンはA型が2種、B型が1種の3価ワクチンです。このワクチン株の予想は、例年2月にWHOで行われ、ここで来シーズンのワクチン株の選定がおこなわれます。これを参考にして、春にワクチン製造が始められ(製造期間は6ヶ月程度かかるそうです)、10月にワクチン接種開始となります。最近のデータでは、日本では10人に一人が、インフルエンザで医療機関を受診しており、小児や高齢者、さらに心臓や肺に基礎疾患のある方に、入院や重症が多く、注意が必要です。
8. ワクチンは本当に効くのでしょうか?
ワクチン効果は、人によって違います。現在の注射によるインフルエンザワクチンは、鼻や口の粘膜からの感染を直接予防する効果はありません。しかし、発症と重症化を抑える効果はあるといわれております。これは、接種によりインフルエンザウイルスに対する抗体を血中につくり、同じウイルスが入ってきたときにそれを攻撃して、発症や重症化を抑えるといわれております。ワクチンの有効率ですが、発病予防を指標とした場合、小児では3割程度、高齢者では3-5割程度、成人では7割程度という報告があります。これから考えると、ワクチンを打っていても、100%病気にならないというわけではなく、やはり、インフルエンザ流行期の今は、予防対策が必須です。また、ワクチンは、接種後2-4週間で免疫ができ、5ヶ月程度の効果持続があるといわれます。毎年1-3月が流行期ですので、理想としては前年秋(10-11月)に接種を済ませておくのが良いでしょう。
近年、ワクチンの開発が進み、粘膜に直接抗体をつくり、粘膜での感染そのものを予防する経鼻ワクチン(フルミスト:米国)も開発されてきました。従来の注射(不活化ワクチン)ではなく鼻から点鼻(噴霧)する液状のワクチン(生ワクチン)です。注射の痛みはもちろんありません!生ワクチンのため、安全性を考慮し、2~49歳までの健常者に制限する等の条件がありますが、米国では2003年、ヨーロッパでは2011年からに認可され、従来の注射のワクチンより、はるかに高い予防効果が報告されております。残念ながらわが国では認可されておらず、現在は個人輸入による未認可ワクチン(自己責任で接種)という取扱いです。早く認可されることを望みます。
9. 感染の経路
ほとんどが人から人への感染です。3つの経路が考えられております。すなわち、咳・くしゃみなどからの飛沫感染(飛沫は一回のくしゃみで、10万個! 1-3mは飛ぶそうです)、ウイルスが付着したものを手でさわり、手を介し口から感染するなどの接触感染、空気中に漂うウイルスからの空気感染です。インフルエンザウイルスは、インフル感染者の咽頭から、発症後3~5日間は分離されるといわれております。つまり、熱が下がり、症状が楽になっても、人にうつしやすいのです。このことからも、咳エチケット(症状がある患者さんがマスクをつけるなど)が大切です。インフルエンザは、強い感染力を持ち人の体内で生きながらえますが、外界では、数分程度しか生存できないそうです。風邪の大半は、鼻や口、のどなど上気道に付着して、感染が起こります。上気道の病気は耳鼻咽喉科の専門です。お子様で、風邪をひいて、熱はないけれど、わりと元気だから小児科に行くのもどうかなあ・・・と悩まれることもあるかと思います。なんとなく鼻症状や風邪症状が続く場合は、ぜひお近く耳鼻咽喉科を受診にてみてください。
10. 予防法で、手洗い、うがい、マスクは、どれが一番効果的でしょうか?
手洗い:石鹸での手洗い、流水での手洗いは、手についたウイルスを洗い流せます。手洗いは、インフルエンザを含め、あらゆる感染症の感染予防に、推奨されております。簡単にできる確実な予防法です。じつは、手洗いが一番効果的なのです。なるべく石鹸を使い、少なくとも30秒は洗いたいものです。色々な手洗いの歌が考えられており、“手洗いの歌”で検索すれば、You Tube などで見ることができます。結構楽しめますよ。
うがいの効果は?:口やのどの粘膜にウイルスが付着したから細胞内へ侵入するまでは20分くらいしかかからないので、実際20分ごとにうがいをすることは不可能です。最近のうがいの予防効果についての検討では、医学的根拠なしともいわれております。ただし、水うがいだけでも、風邪罹患率を40%減らせたという報告もあり、日本古来のうがいもまんざらではなさそうです。なお、消毒薬やお茶うがいもよくなされておりますが、実は水うがいで十分です。
マスク:ウイルスは、マスクを簡単に通りぬけることができ、医学的にはマスクによる風邪予防効果は証明されておりません。ただし、飛沫感染予防(咳エチケット)、鼻・のどの乾燥予防になり、有用性はあります。
ヨーグルト・発酵食品・ビタミン剤も昔から良いとされております。ただし、食品は即効性のあるものではありませんので、やはり、栄養をきちんと取って、疲労をためず免疫力を高めることが何よりも大切です。
11. 重症化させないためには・・・。
今も昔も「風邪は万病の元」です。ここ10数年、インフルエンザについては、迅速検査キットや、お薬(抗インフルエンザ薬)の普及により、かなり、重症化が防げてきております。しかし、インフルエンザが原因で肺炎や脳症にかかり、思わぬ事態になることもあり油断禁物です。まずは、感染予防をきちんと行いましょう。万が一かかってしまったら、無理をせず早めに医療機関を受診し、安静・保温・保湿を保ち、外出をひかえ休養し、治療に専念しましょう。
※内容の一部は、12月23日放送予定のフレンズFM762 http://www.friendsfm.co.jp/ 「空・とぶ・TAMAGO~情報宅配便~」11:30~13:30(吉田玲子さん担当)でお話しいたしました。(先日、事前収録済です)
追伸:ネギで風邪予防!?ネギは、古くから薬用植物として栽培されています。風邪のひき始めには、ネギを食べたり、湿布薬に使うなどの方法が引き継がれております。いまでも民間療法で、“ネギを首に巻く?方法”がありますが、これはあまり意味がなさそうですね。ネギの独特のにおいのもとになっている「アリシン」に、殺菌作用があると言われており、ネギの白い部分に多く含まれます。アリシンは水に溶ける性質があり、熱に弱いため、お料理に使う場合、あまり加熱せず、最後に刻んだ白ネギを使うのが効果的です。冬至には、かぼちゃとゆず湯(http://allabout.co.jp/gm/gc/220635/2/)。これも、昔の人の言い伝えで、いまでも習慣が残っています。先人の知恵を振り返ると、人がいかに自然に共存し暮らしてきたかを考えさせられます。