梅雨の季節です。そのめまい大丈夫ですか?
今日から6月。いよいよ梅雨の季節がやってきます。最近は、5月よりも6月に体調不良を訴える人が増えていて「6月病」とも呼ばれております。6月といえば、新人研修が終わって職場に配置され、いよいよ実際の仕事現場に就くころですね。6月に入って仕事の厳しさに直面したり、仕事や人間関係にうまく対応できなくなってしまったりして、大きなストレスを抱え込んでしまう人が少なくありません。何となくどんよりとしてしまうのは、ジメジメとした6月のお天気も無関係ではありません。なかには、フワフワ、グルグル、クラクラなどのめまい症状でお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか? めまいの患者さんは季節の変わり目にめまいが悪化しやすく、この6月と秋の9月は要注意です。6月は梅雨、9月は台風のシーズンで、気圧が急激に変化する時期です。内耳は気圧変化に影響を受けやすく、このためにめまいが悪化すると考えられております。
◆めまい患者さんは少ないのでしょうか?
めまいを訴える患者さんの数は意外に多く、耳鼻咽喉科や神経内科の外来患者の約10%です。こんなにありふれているにもかかわらず、「めまい」は患者さんはもちろんのこと、医者の側からも、実はとても厄介な症状です。平衡感覚は、耳(内耳)からの前庭感覚、眼(網膜)からの視覚、足(筋や腱)からの深部感覚、そしてこれらを統合する中枢神経系(脳)から成り立っております。めまいは、これらのミスマッチや統合異常で生じるため、原因は多岐にわたります。これに加え、単に血圧の変動や気分の落ち込みでもめまいが起こり、めまいはとてもわかりにくい、実は医者泣かせの訴えなのです。ましてや、めまい発作の今起こっている目の前の患者さんに、正確な病歴や、詳細な診察を行うこと至難の業(きわめて困難)です。患者さんは、めまいや嘔吐でとてもつらく、不安でいっぱいです。なかには「お願いだからそっとしておいてくれ」と初めから診察を拒否される患者さんもいます。発作を過ぎて外来を受診される患者さんは、比較的時間をかけて診察できるのですが、すでに「嵐が過ぎ去っており」決定的な証拠や検査所見がすでに無くなっていることも間々あります。 最近の報告では、臨床の現場で遭遇するめまいは、末梢性めまい(耳のめまい)が大半で、中枢性めまいは、1-5%と極めて少数派なのです。つまり、頻度の高い末梢性めまいを的確に診断できれば、めまい患者の多くは外来の診察室で直ちに診断がつき、また、その大半がその場で治療可能な「良性発作性頭位めまい症」であることがわかってきました。 つまり、末梢性(耳性)めまいか、中枢性(脳)めまいかを、簡便に、早期に鑑別し、診断ができれば、治療がスムーズに行えるのです。脳には、体のバランス維持と同時に、それ以外の運動や感覚も司っております。すなわち、平衡維持の神経機構とほぼ同じ場所に、眼球運動や構音(ろれつ)、嚥下、四肢の運動や感覚の神経機構があり、「脳のめまい」では、めまい以外の症状も同時におこります。これに対し耳(内耳)では、前庭感覚と聴覚があるだけですので、「耳のめまい」では、めまい以外の症状がないか、あったとしても聴力低下のみです。
めまいの分類
医学的には3つに分類されます。
① 回転性めまい(vertigo):自己や周囲が回転するめまい。グルグルめまい。
耳(内耳)・前庭神経の障害によるめまいの代表。中枢性(脳幹・小脳・延髄)「危険なめまい」のこともあり、めまい以外の所見もきちんと診察することが大切です。
② 浮動性めまい(dizziness):何となく揺れている(動揺感)、フワフワする、フワフワと浮いた感じがする(浮動感)。多くの原因があり、診断が難しい。小脳・脳幹の病変もあり、注意を要が必要です。
③ 失神性めまい(faintness):眼前暗黒感や気が遠くなる感じなどの失神前駆症状(presyncope)で、脳血流の著明な低下によって起こります。低血圧・除脈・不整脈をきたす疾患により発症します。
また、「心の病気」からくるめまいもあります。精神障害によって生じるめまいで、めまいの検査を行っても異常がみられません。不安障害やうつ病でめまいを訴えることが多いとされております。
突然めまいが起こったときはどうしますか?
直ちに救急車ということは必要ありません。初めてのめまい発作の経験は、だれでもパニックになっていまします。まず、「脳に何か起こったのではないか?!」「生死にかかわるような大病ではないか?」などと、大変な不安に襲われます。ここで冷静に行動できる方はほとんどいません。しかし、しびれや意識の薄れなどを伴わないめまいは、生命にかかわることはほとんどありません。めまいの強さは、病気の重さとは関係ありませんので、いたずらに不安がらずに、まずは深呼吸です。激しいめまい発作は、通常それほど長くは続きませんので、安静にしておれば、しだいに治まっていきます。以下に、急なめまいの対処法を示します。
① 我慢せずに座ることが最優先。
② 衣服や体を締め付けているベルトを緩め、楽にする。
③ なるべく静かな場所を選び、安静にする。
④ 頭を動かさないようにする。
⑤ めまいが長引くときは横になる。
⑥ 強いめまいでは、嘔吐に備える。
運転中にめまいが起こったときは、交通事故を起こしかねません。すぐに安全な場所に駐車し、めまいが治まるまで運転を控えましょう。
*極めてまれに、生命にかかわるめまい「危ないめまい」が起こっていることもあります。この場合は、一刻を争います。ただちに救急車を手配しましょう。脳血管障害のめまいは一刻を争います。頭を動かさないようにし、上半身をやや高めにして横になって救急車を待ちましょう。以下の場合、救急車を呼びましょう!
① 経験のない激しい頭痛がする。
② 舌がもつれ、呂律が回らない。
③ 飲食物が呑み込みにくくなる。
④ 手足や口の周りがしびれる。
⑤ 激しい嘔吐をくりかえす。
⑥ 意識が薄れたり、意識がなくなったりする。
⑦ 物が二重に見える。
⑧ 視野がせまくなったり、視野の一部が暗くなったりする。
軽いめまいのなかにも、中枢性(危ないめまい)が隠れていることもあり、症状が続くときには、ぜひ医療機関を受診してください。また、高齢者のめまいは、高血圧・不整脈、糖尿病などの基礎疾患のある方が多いです。これに伴い脳血管障害のめまいのリスクが高いと報告されており、注意が必要です。
◆めまいはどこを受診すればよいのでしょうか?
めまいのことをよく知らない方は、突然めまいがすると、真っ先に自分の病気が脳の病気、特に脳卒中になったのではないか!?と思い、パニックに陥ります。またある程度めまいを知っている医療関係者でも、突然激しいめまいと吐き気がおこったら、やはり脳卒中を心配するでしょう。このように、多くのめまい患者さんは、まず、神経内科や脳神経外科などの脳の専門施設に受診しようと考えてしまいがちです。危ないめまい(中枢性めまい)が疑われる場合や、救急車搬送でのめまい患者さんは、まず救急医や、脳神経外科、神経内科医が診察することになります。脳血管障害があれば、一刻を争いますので、ただちに治療が開始され、入院が必要となることもあります。安静で回復しためまいや、めまい発作の後は、みなさんは、どこを受診されますか?めまい相談医の立場からは、内科で血圧・糖尿などの病気で治療中の方は、まず、かかりつけの先生にご相談ください。状況によって、かかりつけ医がめまい専門医にご紹介され、これにより、患者さんの既往歴や現症などの医療情報が共有され、医療連携で診察がスムーズに行われます。耳鼻咽喉科医は、めまいの専門ですので、どこに受診すればいいかわからなければ、まずお近くの耳鼻科医に相談してみてはいかがでしょうか?われわれ耳鼻咽喉科医は、専門医の必修項目に「めまい」が含まれています。また、めまい専門医の研究会である「日本めまい平衡医学会」では、学会が認定した専門会員とめまい相談医をホームページ(http://www.memai.jp/)に掲載されており、参考にされるといいでしょう。
◆なぜ、耳鼻咽喉科ではめまいを扱うの?
耳には、2つの役目があります。一つは音を聴くこと、もう一つは体のバランスをとることです。耳は、外から奥へ、外耳(がいじ)・中耳(ちゅうじ)・内耳(ないじ)の3つの部分に分かれています。内耳には、音を感じ取る蝸牛(かぎゅう)と、体のバランスを保つ前庭(ぜんてい)があります。前庭には、三半規管(さんはんきかん)と耳石器(じせきき)があります。三半規管は、外側半規管・前半規管・後半規管の三つの半規管の総称です。この半規管により人間は、三次元空間を感知できるのです。外側半規管は水平回転、前半規管と後半規管は垂直回転を感じ取ります。三半規管が頭や体の動きをとらえるのに対し、耳石器は体の傾き具合(前後・左右・を察知します。人間がまっすぐ立ち、転ばずにいられるのは、バランスのセンサーである、内耳(三半規管と前庭)のおかげなのです。ここにトラブルが起こると、バランスが取りづらくなり、めまいで悩むことになります。耳のことを専門にしているのが我々、耳鼻咽喉科医ですので、これに伴いめまいを専門としています。
*かみむら耳鼻咽喉科のシンボルマークはカタツムリですが、この内耳が由来です。
◆耳のめまいで、一番多いのは、メニエール病?
めまいを繰り返されて入り患者さんの多くが、「私はメニエール病でしょうか?」「救急外来でCTを撮ったが異常なく、メニエール病でしょうと先生に言われた」と尋ねられます。「めまい=メニエール病」と考える方が少なくありませんが、メニエール病の患者さんはそれほど多くありせん。実際は、めまいで耳鼻科を受診される患者さんの10%程度です。30代後半から50代前半の女性に多く、数分から数時間におよぶ回転性めまいと難聴を伴うことが特徴で、何回もめまい発作を繰り返すので厄介です。内耳のリンパ液がなぜか水ぶくれ(内リンパ水腫)のなることで発症し、ストレスが誘因ともいわれております。一番多いのは、良性発作性頭位めまい症(Benign Paroxysmal Positional Vertigo: BPPV)です。長いので、我々はBPPVと呼んでおります。ここ10年で、めまい診断が確実に行われるようになり、実はこのBPPVが耳のめまいの半数以上であることがわかってきました。サッカーなでしこジャパンの、あの澤 選手が、この病気にかかったのは、我々の間では有名な話です。特徴は、いつも同じ頭の位置(頭位)で、めまいが起こります。特定に頭位で、回転性または、景色が流れるようなめまい発作がおこり、めまいの起こっている時間は数秒から1分ほどと比較的短いです。難聴を伴うことがないのがメニエール病との違いです。内耳の耳石器にある耳石が何らかの原因で脱落し、本来は耳石の存在しない三半規管内に誤って入ることで発症するといわれております。通常、1週間程度で自然治癒することも多い病気ですが、BPPVは、理学療法(耳石置換法:Epley法など)が有効な治療法で、1回の理学療法で治ることもあります。その他に、少数派ですが、前庭神経炎・外リンパ瘻を加えた、全部で4つが代表的な耳のめまいです。
◆医療機関でのめまいの診かた
歩いて来院された場合は、すでにめまい発作が落ち着いているか、またはめまいの自覚が比較的軽い場合です。この場合、患者さんも比較的落ち着いて来院されているため、詳しく問診を取り、診察できます。まずは、めまい以外の脳神経症状(しびれ・構音障害や呂律のまわりにくさ・片麻痺の有無・眼球運動や視力・視野のチェック)、血圧・脈拍などの全身状態の把握を行います。ここからが、めまいの鑑別に大切な検査です。まず、立位閉眼時でのバランスチェック、さらに聴力低下の有無を調べます。フレンツェル眼鏡という、特殊な眼鏡を患者さんに装着し、眼球の動きを観察します。めまい発作の時は、眼球が特徴的に動くのです。この眼の動きのこと眼振(がんしん)といいます。眼振の有無、眼球の動き方により、ある程度めまいの診断を付けることができ、とても大切な検査です。この眼振を診る検査は、通常、耳鼻咽喉科専門医のいるクリニックで受けることができます。救急搬送、あるいは歩行できない、意識が薄れているめまいは、「危険なめまい」の可能性もあり、まずは中枢性(脳)か内耳性(耳)かの早急な鑑別診断です。「危険なめまい」救急外来では遭遇することもありますが、一般のめまい外来では、極めてまれなケースです。
◆熱中症でのめまい
熱中症の初期で、めまいや立ちくらみがおこります。今からの蒸し暑い季節は要注意!
高温の環境で運動や労働を行うと、熱中症が起こることがあります。熱中症は①体液の不足で起こる障害、②体温上昇で起こる障害の総称です。Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度の3つに分類されます。
- Ⅰ度:めまいやたちくらみを自覚する。筋肉痛やこむら返り(脚がつる)がある。拭いても拭いても汗がどんどん出てくる。
- Ⅱ度:頭痛、悪心(吐き気)、嘔吐を認める。つかれやだるさといった全身倦怠感を自覚する。
- Ⅲ度:意識障害を認める。けいれんが起こる。体温が高くなる。
「Ⅲ度は、直ちに救急車を呼び、病院での対応が必要」です。Ⅰ度からⅢ度へと、アッという間に重症化しますので、早めの対応が必要です。暑い中で、めまいや立ちくらみがあれば、熱中症Ⅰ度の可能性があります。作業や運動を止め、速やかに涼しい、風通しの良い場所に移ることです。さらにカラダを冷やし、水分、塩分、糖分を補給する必要があります。梅雨の終わりの時期は、蒸し暑く、体が熱さにも慣れておりません。熱中症が最も起こりやすい時期です。また、お子さんと高齢者は、脱水症から熱中症になりやすく、特に注意が必要です。十分な水分補強、早めの対処を心がけましょう。あの所さんも、畑仕事中に熱中症になった経験があるとのことです。以下のホームページがとても参考になりますよ。(http://www.kakuredassui.jp/)
*写真は、隣町のいちき串木野市にある「二つ菫(ふたつすみれ)http://2sumire.com/」です。ベーグルがとてもおいしい山の中のカフェです。タンドリーチキンは絶品です。周りが木々に囲まれ、私の癒しの場です。疲れたときには、無理せず、気分転換が必要ですね。